ボロミア

アラゴルンはかれのかたわらに跪きました。ボロミアは目を開き、懸命に口を利こうとしました。ようやくゆっくりと言葉が出てきました。「わたしはフロドから指輪を取ろうとした。」と、かれはいいました。「悪かった。償いはした。」かれの視線は切り倒された敵の方へさ迷って行きました。そこには、少なくとも二十人はいました。
「いなくなった、小さい人たちは。オークどもが連れて行った。死んではいないと思う。オークどもはかれらを縛りあげた。」かれは言葉を切って大儀そうに目を閉じました。しばらくするとかれはふたたび口を利きました。
「おさらば、アラゴルン! ミナス・ティリスに行き、わが同胞を救ってください! わたしはだめだったが。」
「違う!」アラゴルンはそういうと、かれの手をとり、その額に口づけしました。「あなたは打ち勝ったのだ。このような勝利を収めた者はほとんどおらぬ。心を安んじられよ! ミナス・ティリスを陥落させはせぬ!」
ボロミアはほほ笑みました。

第2部「2つの塔」冒頭の、ボロミアが死を目前にし、指輪の誘惑に打ち勝つシーンです。
最初に読んだ時は、アラゴルンがいうあなたは打ち勝ったのだ。意味が理解できませんでした。オークと勇敢に戦い、二十人以上を倒したことをいっているのか、あるいは、死に臨むボロミアに慰めの言葉をかけているのか、というくらいに捉えていました。
そもそも、ボロミアが指輪の誘惑に捉えられたのは、ミナス・ティリスを救いたいという一心からのことです。アンデュインを下りながら、近く訪れるであろう(モルドールとミナス・ティリスという)行く先の分岐に向かって、彼の心は知らず知らずのうちに指輪の誘惑と戦っていたのでしょう。だから、フロドに、ミナス・ティリスへ向かうよう説得を試み、失敗すると、指輪を奪おうとしたのです。それをアラゴルンに告白した時のボロミアは、指輪の誘惑に打ち勝ったのです。だからこそ、このような勝利を収めた者はほとんどおらぬ。となるわけですね。指輪の誘惑に勝てる者などほとんどいない、ということですね。